以下の判決は、原告、および原告代理人の同意を得て、同代理人からいただいたコピーをOCR作成したものです。乱丁があるかもわかりませんので、そのつもりでご参照ください。原告プライバシー保護のため住所は省略してあります。



平成一○年一二月二五日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 

平成九年(ワ)第七三号 損害賠償等請求事件


(口頭弁論終結日・平成一○年一○月三○日)

判決


兵庫県津名郡五色町 O O O O O O O O
      原       告 山 口   薫 
      右訴訟代理人弁護士 宮 崎 定 邦 
      同         辰 巳 裕 規

兵庫県津名郡五色町都志二○七番地 五色町役場
     被        告 五  色  町
     右代表者町長     砂 尾     治
     右訴訟代理人弁護士  道 上 明 
     同          伊 藤  信  二


主文

一 原告の請求をいずれも棄却ずる。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及ぴ理由

第一 請求

一 被告は、原告に対し、金一○○万円及びこれに対する平成九年十一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、「淡路五色ケーブルテレビ」において、五日間にわたり別紙記載の内容の謝罪広告をせよ。

第二 事案の概要

一 本件は、被告の町民である原告が、被告に対し、被告の営むケーブルテレビで原告の広告放送が一旦放送されたもののその後停止されたこと及び被告主宰でロシア共和国ハバロフスクの少年少女民族舞踏団の公演が年われる際に被告の要請で原告が原告方でのホームステイを引き受けていたが、被告が右放送停止を通知した直後、原告方でのホームステイを断って原告の被告公式イベントへの参加を拒否するなど、被告町行政に原告が反対しているかのような印象を町民に与えて村八分したことを理由とする慰謝料及ぴ謝罪広告を請求する事案である。

二 争いのない事実
1 被告は、「淡路五色ケーブルテレビ」の名称で放送事業を営んでいる。
2 原告は、被告住民であるが、被告に対し、平成九年八月二六日、別紙記載のとおりの内容の広告放送を同日から同月三○日までの五日間行うように申し込み、広告手数料五○○○円を支払った。
3 被告は、原告の申込みを承諾し、同月二六日、一旦、右広告放送を行った。
4 被告は、原告に対し、その後、広告放送を停止する旨通知し、以後は放送を行わなかった。
5 被告は、原告に対し、放送停止の理由について、五色町情報センター広告放送取扱要綱二条一五号に該当すると通知した。
6 被告町長は、右広告にかかる集会に参加した。
7 被告は、原告に対し、ロシア共和国からのホームステイ先となることを断った。

第三 争点 

一 被告の広告放送中止は違法であるか。
二 原告の広告放送中止による損害の内容。

第四 争点に対する当事者の主張争点


一 争点一(被告の広告放送中止は違法であるか。)について

〈原告)
1 淡路五色ケーブルテレビは公の施設(地方自治法二四四条)に該当する。
2 本件広告放送契約(以下、「本件契約」という。)は、私法契約ではなく公法契約であり、憲法の規定が直接適用される。
3 本件広告放送停止には正当な理由がなく、原告の表現の自由〈憲法二一条)及び公の施設を利用する権利を侵害したもので、違法である。

(被告)
1 本件契約は、純然たる私法上の契約であり、憲法の直接適用を受けず、民法上の債務不履行ないし不法行為の成立が問題になるのみである。
 そして、淡路五色ケーブルテレビを利用する住民間の公平を図るためにも附合契約の法理が適用されるべきであり、放送内容の基準など契約の基本的内容は、五色町情報センター広告放送取扱要綱の規定内容に従うことになる。
2 本件広告放送中止は、広告放送をしない場合を定めた五色町情報センタ−広告放送取扱要綱二条の名号の内、六号(社会間題等についての意見広告)及び一二号(あたかも町が推奨していると思われる表現のもの)の規定の趣旨をも考慮に入れて総合的に同条一五号(その他放送することが不適当と町長が認めるもの)に該当すると判断したものである。
 すなわち、本件広告の内容が五色町への建設残土の搬入を巡る問題であり、当時、住民の間でも賛否の意見が分かれているところであり、本件広告放送を行うことにより被告がフォーラム主催者の立場に賛同しているようなな印象を与えることを避け、行政の中立性に対する疑いをもたれないために行ったもので、合理性があり、違法性や債務不履行はなく、不法行為も成立しない。
3 被告が、原告方でのホームステイを断ったことと本件広告放送中止とは関連性がない。

二 争点二〈原告の広告放送中止による損害の内容。)について

(原告)
1 被告の本件広告放送中止行為により、原告及ぴフォーラム参加者は反町長派と見られれることになり、加えて広告鼓送中止に端を発して原告宅ヘのホームステイが被告によって理由もなく断られて、原告はあたかも町政に混乱を招く者であるかのような印象を与えられ、今後のフォーラムの活動が困難な事態に立ち至ったもので、原告は表現の自由を行使する機会を奪われただけでなく、真撃にふるさとの環境保全と町行政の発展に寄与しようとした意図・行動を挫かれ、蒙った精神的苦痛は甚大である。

(被告)
1 本件広告放送中止行為によりフォーラム参加者の数が減少したとは認められない。
2 仮に被告の行為が債務不履行に該当するとしても、履行不能に基づく損害賠償の内容は履行利益の賠償に限られ、慰藉料や謝罪広告の請求は認められない。また、不法行為として構成されるとしても、事実関係は全く同じであるから、同様に解すべきである。
3 本件広告料金玉○○○円については、被告は原告に対し返還を申し出たtところ原告はこれを受領しなかったもので、請求権を放棄しており、原告の損害とは認められない。

第五 争点に対する判断

一 争点一について

1 本件契約の性質
  本件契約は、ケーブル回線を利用したテレビによる広告放送であり、契約の一方当事者は地方公共団体たる被告であるが、同様の契約は、私企業たる放送会社においても広く行われており(乙一五)、地方公共団体が行政の主体としてではなく、私人と対等の立場に立って、私人との間で締結したもので、契約の成立過程及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりのないといえるような特段の事情はないから私法上の契約と見るのが相当である。したがって、憲法の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないものと解される。そして、本件においては五色町情報センター広告放送取扱要綱(同様の規定は、地方公共団体における広報紙への広告掲載についての基準にも認められる。乙三一)と契約法理によって契約の効力を判断すべきである。

 以上のとおりであるから、本件においては民法上の債務不履行ないし不法行為の成否を検討すべきことになる。

2 本件広告放送中止の理由について
 証拠(甲三、四、一五、一七、乙一、二、五、六、八、一三の一・二一、一六の一・二、一九ないし二三、三○、三八、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件広告放送中止の背景事情及ぴ本工広告放送中止の理由については以下のとおり認められる。

 すなわち、五色町内で、建設残土搬入を要望し、その実現に向けて行動していた地区には、奥の内、米山、鮎原吉田、鮎原上東山、広石の各地区があったが、これらの地区では谷等が多く、良好な田畑を整備することが困難であったため、ほ場整備事業を行うことが強く望まれていたこと、米山地区においては、農業に従事する町民三四名が平成六年九月に米山地区土地改良組合を設立し、数々の準備の後、平成八年一二月に総事業費五億円をかけてほ場整備事業を行うことが被告議会で議決されるに至ったこと、他方、建設残土搬入に伴う交通公害や建設残土の安全性を間題とする反対派の動きが日増しに強くなっていき、平成九年三月に烏飼地区を中心として太規模な署名活動(反対署名数三六七七名)がなされ、被告条例を制定し、建設残土搬入を厳しく制限しようという動きが出てきたこと、そこで、前記米山地区土地改良組合員らは、平成八年三月から平成九年五月にかけて、建設残土搬入を禁止しないようにとの要請を直接町長に行ったこと、この間の推進派と反対派、の動きは、いずれか一方が行動を起こすと、他方がこれに対する行動を起こすということを繰り返し、次第に激しいものになっていったこと、建設残土搬入の中止を危惧した推進派の中には、搬入を中止すれば被告に損害賠償請求の訴訟を提起するとして町長に激しく迫る者がいたし、逆に反対派の中には、町長のリコールについて発言する者も出てきており、原告はその中の一人であったこと、これに対し、町長としては、建設残土搬入間題が激化して、町内が混乱することを避ける必要があったこと、本件広告放送の表題は、「『黒い土』汚染間題を考える」というものであって、建許残土搬入について否定的な意味合いを有していること、建設残土搬入についての反対論者であると見られていた原告が広告主〈「間合わせ先、五色・淡路末来フォーラム、代表山口薫」)であったこと、被告は、広告放送をしない場合を定めた五色町情報センター広告放送取扱要網二条の各号の内、六号〈社会間題等についての意見広告)及び一二号(あたかも町が推奨していると思われる表現のもの)の規定の趣旨をも考慮に入れて総合的に同条一五号(その他放送することが不適当と町長が認めるもの)に該当すると判断したことの各事実が認められる。

 以上の事実に照らすと、本件広告放送中止は、本件広告の内容が被告への建設残土の搬入を巡る問題であり、当時、住民の間でも賛否の意見が分かれているところであり、本件広告放送を行うことにより被告がフォーラム主催者の立場に賛同しているような印象を与えることを避け、行政の中立性に対する疑いをもたれないために行ったもので、合理性があり、違法性はなく、債務不履行や不法行為は成立しないと認められる。

 なお、前記のとおり、被告は、本件契約の締結後、一旦、本件広告放送を行ったが、これは担当者が、十分に本件広告放送の内容を検討しなかったためであり、この時点においては、町長は放送の内容はもとより、本件契約が締結されたこと自体を知らなかったものであり、その後、町長において前記のとおり判断して本件広告放送を停止したことが認められ(乙八、三○、被告代表者)、一旦、広告放送を行ったことが債務不履行ないし不法行為の成否に影響を与えるものではない。

3 以上のとおり、被告の本件広告放送中止は違法なものとは認められないものであるところ、被告が、原告に対し、ロシア共和国からのホームステイ先となることを断ったことも、前記広告放送の中止により、原告と町長との関係が緊張間係にあったことを考慮し、ホームステイを円滑に実施するためであったと認められ(乙三○、被告代表者)、違法なものとはいえない。

 してみると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

第六 結論

よって、原告の請求をいずれも棄却することとして主文のとおり判決する。

   神戸地方裁判所洲本支部

    裁判官  松 尾 昭 彦





(判決添付資料)

謝罪広告


山 口 薫 殿

 一九九七年 月 日


    兵庫県津名郡五色町
     町 長 砂 尾 治

一九九七年八月三一日五色町民センターで開催されました「第一回五色・淡路未来フオーラム」(テーマ黒い土と汚染間題を考える)につき、
貴殿からの当町営の淡路五色ケーブルテレピによる広告放送申し込みを貴殿から同年八月二五目受けて一旦放映したにもかかわらず、約一時間
後に当町情報センター広告放送取扱要綱第二条一五号(その他放送することが不適当と町長が認めるもの)に該当するとして放送を一方的に停
止しました。
しかしながら、当町の右処置は貴殿の表現の自由を侵害した違憲違法のものであり、貴殿及び町民の皆様に対して大変ご迷惑をお掛けしまし
た。
 ここに衰心よりお詫び申し上げます。





(判決添付資料)

平成9年8月26日に一旦放送された原告告知広告の内容


なお、プライバシー保護のため、むらトピア未来研究室の判断で上記広告にある2つの電話番号(黒い塗りつぶし部分)は省略しております。